まさかこのあたしが年下の男と付き合うことになるなんて!! 自分でも驚いている、自分が決めたことなのにね。
「先輩、帰ろー!」 授業が終わると、必ず薫はあたしの教室に迎えに来る。最初の日、つまりは薫が「付き合おう」と言ってなぜかあたしがうなずいてしまった日の翌日だけど、薫が教室に来たときクラス中に振り向かれたものだった。 「朱美、どうしたの!?」 「なんか悪いものでも食べた?」 「あ、分かった! あの子って実はお金持ち? 玉の輿を狙っているんでしょ?」 今までのあたしを見ていた奴らは、好き勝手に言っていたけれど、それも不正解。残念。 自分でも認めたくないけれど、つまり・・・、薫と付き合うことにメリットとかデメリットとか関係なく、あたしは薫の手を取ってしまったということで・・・、それを世の中は恋だというのかな。それだとしたら恥ずかしすぎる。 よく世の中の人間は「恋」なんて言葉を軽々と使っていられるなぁとあたしは純情になる。振りじゃなくて! あたしは純情なんだと最近知った。これも認めたくないことだけどね。 何より、あたしは最近薫を見ると「可愛い」と思ってしまう。・・・これも恋の一環ですか。 「先輩、遅いよ」 「あたしのせいじゃないって。担任に文句言ってよ」 付き合ってから日を重ねるたびに、あたしは薫を可愛く思える。最初は生意気な子供だと思っていたし、年下のくせになんて大人びているんだろうとか思っていたけれど、最近はどこから引っ張ってきたのか薫の純情っぷりには参っている。 どっちが本当の薫なんだろう。
学校の帰りには、決まってあの公園に行くことが日課になっていた。 あの日に見た桜はもう葉だけを残す状態になっていて、別にあたしは感慨深い人間でもないけれど、何とも物悲しい。 「桜、散ってしまったね」 ものすごいタイミングで薫がベンチに座りながら言った。あたしも続いてその隣に座る。 「綺麗だったのに」 それより何より、奈緒に誘われていた花見の日は薫の願い通り見事に雨天になり、中止になったのだ。だから花が散っても仕方がない。 「だって、もう四月も残りわずかだもん」 「先輩との思い出なのにね」 あたしを真正面から見て、薫が微笑む。何とも表現しづらい、その笑顔。また心臓がドキドキしてきた。 「先輩? どうかした?」 どうしたも何も! 薫に出会ってからあたしの心臓は尋常じゃないよ。これって病気かな。恋という名の病気だったら、あたしは一生完治できないままだ。 でも年上の威厳を失いたくなくて、あたしは何も言わないまま薫を睨む。 「ど、どうもしないし!」 「そう? でも顔赤いよ」 何もかも見透かしたように、薫は分かる。 ・・・前言撤回! やっぱり薫は純情なんかじゃない!! 余裕かましてあたしのことを笑っているんだ。なんだか腹立ってきた。 そこで、あたしは一つの作戦を思いつく。あたしだって大人なのよ、この年下の男を揺さぶらなくちゃ気がすまない。 あたしは薫を睨んだまま、薫に顔を近づけて、薫の頬にキスをした。 「えっ・・・・・・?」 柔らかくてすべすべの頬から唇を離したとき、薫は真っ赤になってあたしを見た。 「何? 今の・・・」 「ほっぺにチュウ」 「・・・・・・・・・」 薫は口をパクパクさせた。思っていたよりも効果あった。心の中で勝利を振りかざしたとき、 「やべ・・・、どうしよ・・・、心臓壊れそうだよ・・・」 真っ赤な顔のまま薫がつぶやいて、その顔を見たあたしもまた鳴り響く心臓にやられそうになってしまった。 やっぱり薫は純情なのかな。だけどこの疑問の答えはまだいらないな。だって、今は目の前の薫を見ているだけで充分だよ。 あたしたち、お互いに恋の病にかかっているのだと知ったから。恋をするにはかなり高いリスクが伴うようだけど。
このスリルある鼓動もいいかもね。
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