Pray(前編)
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立っていたのは真っ暗な闇の中。
自分という存在がどういうものかさえおぼつかないその思考で、必死に進もうと考える。・・・でも一体どこへ。
そんなことを考えていると、次から次へと襲い掛かかってくる。人間とは呼べない代物。それはかつて自分が護り切れなかったものだろうか。
斬って斬って、それでも敵は減るどころか増えるばかりで、そして。
本能が、走り出す。
「銀時、銀時?」
ああ、誰かが呼んでいる。
敵の隙間からかすかに聞こえてくるトーンの落ち着いた声。とても懐かしく思う。だけど、それが誰なのか分からない。込み上げてくる感情が何なのかも分からなくて。
―――オマエは何一つ護ることなんてできやしねェ。
自分の目の前にいた骸骨がそう笑って、刀を振り上げた。
「銀時!?」
はっと我に返ると眩しい蛍光灯が目に飛び込んで来た。額に汗が伝う。
「・・・銀時?」
控えめな声がして、目を向けると恋人が心配そうに銀時の顔を覗き込んでいた。蛍光灯とともに眩しくて、銀時は目を細める。
「・・・」
「銀時、うなされていたから電気つけちゃった・・・、眩しい?」
「あァ・・・」
「ご、ごめんね。今消すね」
そう言って、は立ち上がって蛍光灯を消した。とたんに部屋は暗くなり、再び静寂が訪れる。
「」
「何?」
「起こしてしまったか? 悪りィ」
「ううん・・・」
は首を横に振って、銀時の布団にもぐりこんだ。
「・・・悪い夢だった?」
静かには訊いた。銀時は天井に目を向けたまま、何も答えない。もそれ以上返答を求めることはなく、ただ指で銀時の銀髪に触れていた。
酷く疲れてしまった。呼吸をするたびに肺が鳴る。
大きなトラウマになっている。もう昔のことだというのに。今は新八や神楽、そしてがいて、とても幸せな日々を送っているというのに。
いつまで経っても悪夢は銀時を解放してくれない。
いっそこのまま感情が凍結してしまえば楽なのに。
閉鎖的なこの記憶に捕われたまま、あと何年生き続けていかなければならないのだろう。このどす黒い気持ちを抱えたまま、それでも自分は生きることを選んだ。生きる道を見つけた。
隣でいつの間にか寝息をたてているに目を向ける。
いつか悪夢に侵されて、をさえ裏切ることになってしまったら・・・。
銀時はの髪の毛に触れた。恐怖はまだ、この胸から消えることがない。
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