ストロベリーキス


 キスってイチゴ味じゃないと駄目なんだよ。


 とあたしが言った数日後、彼氏の薫とキスをしたら本当にイチゴの香りがしてビビった。
「何コレ、イチゴの匂いがする!」
「だって朱美ちゃんがイチゴ味じゃないと駄目って言うから、子供用のハミガキを使っているんだ」
「あんた、そんなの真に受けるなんて馬鹿だよ!」
 ついキツク言ってしまったあたしの言葉をまともに信じて、シュンとヘコむ薫はとても可愛い。あたしの可愛くて大切な年下のコイビトの頭を、あたしは優しく撫でてあげる。


 この春、あたしは高校三年に、薫は高校二年に進級する。
「朱美ちゃん、今度受験生になるんだね」
 開いた窓から入る春風に包まれた私の部屋で、二人並んで座ってボンヤリしていると薫がそう言った。
「そうだねぇ。もう薫とは会えないね」
「ええっ、嘘!?」
 なんて可愛いのだ薫! 思わずぎゅっと抱きしめたくなる衝動をこらえて、あたしは「それはどうかな」と素知らぬふりをする。
「朱美ちゃんに会えなくなったら生きていけないよ俺!」
 薫は必死になって言うけれど。でもね、薫に会えなくなって狂ってしまうのはあたしの方なんだよ。
 自分で仕掛けた嘘なのに、この気持ちをどうにか伝えたくて、あたしは薫を頭ごと抱きしめる。
「ごめんね。嘘だよ。これからも会えるよ。・・・会える日は減っちゃうかもしれないけれど」
 春の風も暖かいけれど、やっぱりあたしは薫の温もりが大好きだ。ほっと胸を撫で下ろしたくなるような安心感があるの。
「朱美ちゃんの髪、いい香りがする」
 あたしの耳元で薫は言った。
「そういえば最近イチゴの香りのシャンプーに変えたんだ」
「へえ。イチゴって朱美ちゃんのブーム?」
 少し身体を離した体勢で、今度は薫があたしの肩より少し長めの髪に触れた。
「春だからね」
 あたしの科白を合図にあたしたちは唇を重ねる。その味は最近ブームのイチゴ味。


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