聴こえる
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夢を見た。 真っ暗な闇の中で響くあなたの声。
「おい、大丈夫か?」 どうやらうなされていたようだ。汗びっしょりになっている自分を自覚しながら、ぼんやりとあなたを見上げる。またあなたに心配かけてしまったみたい。 「・・・大丈夫」 つぶやいて、もう一度目を閉じる。枕もとの時計が何事もなかったように、時間を刻んでいる。まだ真夜中。小さな豆電球が余計にあなたの表情を映し出し、あたしは更に罪悪感に包まれる。 布団のなかで、あなたの手があたしを捜す。あたたかい手、あたしの手を握り締めてくれた。 「ゆっくり眠れよ」 あたしがうなされるたびに、あたしの顔を覗き込むようにしてこの現実の世界に引き戻してくれる。ありがとう、あたしはその手を握り返す。
いつも優しくしてくれてありがとう。 あなたのことを思い、あたしの頬に涙が流れた。ゆっくりと耳元へと伝い、枕を濡らす。 でも、ねえ、あたしは聴こえるのよ。真っ暗な闇の中で叫ぶ、あなたの声を。 ここはどこ? どうしてあなたは叫んでいるの? どうしてあなたは泣いているの?
いつになったらあなたは話してくれるだろう。あたしを信じてくれる日はちゃんと訪れてくれるのだろうか。 不安になる。だって、あたしはあなたを好きなのよ。 知らない振りをするのも限界みたいだ。
あたしは自ら瞳を開けて、もう眠っているであろうあなたの唇に自分のそれを落とした。あなたの呼吸が少し止まり、顔を上げると目が合った。 「・・・まだ寝てなかったのね」 「・・・・・・おまえもな」 驚いているのを隠して、あなたはあたしの瞳を捕える。あたしの頬にあなたのごつごつした指が当たって、くすぐったい。 「夢」 「え?」 「何の夢、見てるんだ、いつも」 「・・・・・・・・・・・・」 あなたの視線から逃れるように、あたしはあなたの隣に頭を降ろす。 それはね。あたしは思う。 ―――あなたの心の世界よ。 それを口にする勇気がなくて黙り込んだあたしの髪に、あなたの手が触る。 目が熱い。と思ったら、再び涙が出た。 「おい、大丈夫かよ」 「・・・・・・うん、まだ夢の余韻に浸っているのかな」 あなたの手が優しく涙を拭う。あたしは鼻をすすって、あなたに抱きついた。 「ねえ」 「うん?」 「あなたもこんな風に、泣いていいのよ?」 涙声であたしがつぶやくと、あなたは口を閉ざしてあたしを見つめた。 こんな風に二人で寄り添うようになって八ヶ月。まだあなたのことは知らないことばかり。だけど、少しでもあたしはあなたの力になれないのかな。 何の力もないけれど、悲しいときは分かち合いたいし、受け止めたいのよ。 あなたはそのまま、額をあたしの肩に押し付けた。何かを言いたそうにしていたけれど、それがなんなのかわからない。あなた自身が分かっていないのかもしれないね。あたしが気付いていたこと、知らなかったでしょう? あたしはまるで子供をあやすように、あなたの頭を撫でた。大丈夫、大丈夫。まるで呪文のよう。 それは、あなただけではなく、あたしを守ってくれているのかもしれない。
・・・アリガトウ。
普段そんな単語を滅多に口にしないくせに。あたしは微笑んだ。そして、うなずいた。 聴こえる。 あなたの声と鼓動と、いつの間に眠ったのか静かな寝息。少しでもあたしは力になれるかな。
今夜こそゆっくりと眠れますように・・・・・・。
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