すきなもの


 「今日は、好きなものの絵を描きましょう」


 2時間目の美術の時間。
 始業のチャイムが鳴ってまもなく先生が言った。

 「好きなものだって」
 「好きなものだね」

 隣の席で向かい合って座っている風梨(ふうり)と言葉を交わす。
 といっても話しかけたのは風梨の方だから返事をしたようなものだけど。

 「好きなもの、どうしようね」
 「ねぇ」

 返したい言葉がなかったから賛成しておいた。

 「倭葉って、好きなものある?」

 倭葉は、あたしの名前。
 『しずは』と読む。

 「ないね」

 うそをつかず、本当のことをきっぱりと言った。

 「風梨はあるの?」
 「ない」

 やっぱり。
 なにかに執着しなさそうだし。

 「他に好きなのは?」

 好きなの…。
 …ってことは、もの以外でもいいんだ。

 「まあ、“人”ならいるけどね」

 好きな人。
 風梨のこと。

 1ヶ月前の美術の時間。
 風梨の『絵』に惚れた。
 心がはっきりと描かれていて、胸がつまるような気がしたから。
 その日から、風梨のことを気になるようになった。


 「初耳。誰?」
 「教えません」
 そう簡単に教えて崩せるような『好き』じゃない。

 「なんか、置いてかれた気分」
 「はっ?」

 別に置いていったつもりないけど。

 「倭葉には好きな人いないと思ってた」

 あたしの性格がひねくれてるせいか、風梨の言い方がおかしいせいか、少しだけバカにされた気がした。

 「俺、好きな人いねーし」

 それは、よろこべるのか、よろこべないのか。
 なんだか、複雑。

 「まあ、がんばれや」

 ――――― 風梨のことが好きなんだよ?

 そう言いたいようで、言いたくない。
 心では簡単に思えても、口には出せない。
 反応が怖いから。


 「好きなものならなんでもいいですよ」


 先生の声が聞こえる。
 でも、今のあたしには、BGMのようにしか聞こえない。

 「好きな人、誰?」

 ちょっと、しつこい。
 知らなくていいのに。

 ―――― あなただから。


 「みんな深く考えずに、思いついたものでいいんです」


 BGM―――のわりに、はっきりと耳に届いた。
 思いついたものでいい、と。
 先生は言った。

 「果物の『ナシ』でも描こうかな」

 風梨の『梨』だから。
 好きな人の名前の一文字だから。

 「なんで『ナシ』?」

 困った表情をしている風梨に笑みを浮かべた。

 「なんでだと思う?」

 気づくだったら、気づけばいい。
 『当たり』なんて言わない。
 ずっと気づかないふりをしているから。



 「じゃあ、俺は『葉』でも描こうかな」



 ?


 「は?」
 「そう。葉っぱ」

 葉。
 あたしの名前の一文字だ。
 偶然なのか、それとも。
 からかっているだけなのか。
 思考が、プラスとマイナスに分かれてしまう。


 「なんでもいいんだろ?」


 よみがえる先生の言葉。


 ――――『好きなものならなんでもいいですよ』


 ……ああ。
 そうか。
 一緒の気持ちなんだ。


 「『好きなもの』だもんね」


 あたしと風梨の絵。
 みんなと同じ、2〜3時間で完成できた。
 いっぱい思いを込めて描いた。
 風梨のことを考えて。



 たった1つだけの『ナシ』の絵。
 真ん中に大きく描く。
 あたしの気持ちよりは小さいけど。
 その絵は、先生に褒められた。
 風梨となんとなく同じにおいがする、と。
 みんなが言った。


キリリクとしていただいた小説です。私はなんと10.000を踏んでしまったのです!
しかも、キリ番受付をされていなかったのにもかかわらず、秋峰様は私のリクエストを快く受け付けてくださいました。
私がリクエストした「舞台が学校」であるお話を書いてくださいました。
とても甘くて、可愛らしくて、思わず顔がにやけてしまいそうなお話です。
私も中学校や高校が共学だったらよかったな!(そういう問題ではナイ)
意味不明なんてことは絶対ないですよ、秋峰さん!(それはむしろ私ですv)
素直になれなくて、でも自分の想いはを知ってほしいという気持ちはいつになっても忘れたくないですよね。
いつまでもそんな心を忘れずにいようと思える作品をありがとうございました。
from『AKIMOE』様



 
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