ロリコンパラダイス
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いつものようにあんみつ屋でバイトしているときのことだった。
「おう、ちゃん」
暖簾をくぐってやってきたのは、常連の銀髪の男。
「銀さん! いらっしゃいませ」
「まあまあ、銀さん。いつもありがとうねぇ」
奥から女店長も出てきた。平日の昼間の店は女や子供でにぎわう中、男性客がいるだけでも珍しいのに、その銀髪に白い着物を流した風貌が更に目立つ。
「銀さん、相変わらず甘い物好きなのね」
「おうよ。俺、糖分摂らないと生きていけねーから。いつもの頼むわ」
「かしこまりました。いつもありがとうございます」
厨房に(とは言っても、女店長の旦那さんしかいないのだが)オーダーをかけて、はお茶を銀時のテーブルにそっと置いた。
「それにしてもちゃん。最近男でも出来たか?」
「え!? なんで・・・」
「だって急に色気が出てきたっつーか・・・、女らしくなったっつーか・・・」
「旦那ァ、そいつぁセクハラ発言でさァ」
急に第三者の声色が混じり、銀時とは同時に声の方向に向いた。そこには隊服の沖田が立っていた。
「あ・・・、沖田さん。えっと・・・いらっしゃいませ・・・?」
「あー、さんはここで働いていたんですねェ。っつーかどうして疑問系?」
「や、だって。・・・お仕事中でしょう?」
「土方さんには内緒ですぜィ?」
「・・・でも」
「もし言ったら、俺もチクりますぜィ。あんたが万事屋の旦那と楽しくおしゃべりをしていたってなァ」
「・・・・・・・・・・・・」
は眉をひそめる。相変わらず沖田のことは苦手だった。仮にも上司である土方の彼女であるに取る態度。あまりにも馬鹿にしている。
「ご注文は」
渋々つぶやいたとき、外からやかましい足音が聞こえてきた。
「総ー悟ー! 堂々と仕事サボるなんて、いい度胸じゃねぇかァ!」
「トシ兄!」
入ってきた土方と他数名の黒服には驚き、持っていたお盆を床に落とした。派手な音が鳴って、お盆は床を転がる。他の女性客や子供が出払ったばかりだったのでよかったが、もう少し早ければ店は騒ぎになっていただろう。
土方と総悟のいつもの日常的なやり取りを見たのは初めてだったのだ。
「ちゃん、大丈夫?」
お盆を拾った銀時に気付き、は我に返った。
「あ、ありがとうございます・・・」
「それより、もしかしたらちゃんって、マヨラー副長の彼女?」
「え・・・」
何故か銀時が土方をマヨラーだと知っている。銀時と土方がいがみ合う仲だと知らないが呆然としていると、
「だーれがマヨラーだ! 斬るぞテメー」
後ろから土方が叫び、を銀時から奪い取るように抱きしめた。
「ちょ、ちょっとトシ兄!?」
「あーららー。マジなの? ねえマジなの多串くぅん?」
「多串じゃねぇって言ってんだろ! 万事屋、テメッ、後でぜってー斬るからな!」
「真選組副長がまさかロリコンなんて、お天道様でも思うめェよ」
「旦那の言うとおりでさァ」
「総悟、オメーは黙ってろ!」
ぜぇぜぇと肩を震わせる土方は、から少し離れて万事屋を睨んだ。
「大体、彼女もいねェ野郎にとやかく言われる筋合いはねーんだよ」
「あれ、俺カノジョいるよ? 言ってなかったっけ」
「聞くかよ! 修学旅行じゃねーんだよ。・・・おまえの彼女いくつよ」
「ハタチ」
「変わんねーだろうが! は十八だ!」
「いやいや、その二歳差は大きいって。線引きされちゃうよ〜? 土方くん警察なのに捕まっちゃうよ〜?」
「いっそ俺が捕まえましょうか、土方さん」
「総悟、おまえは黙っとけって言ってんだろォ!?」
・・・なんだろうコレ。は首をかしげる。土方の手がまだの肩を掴んでいるので、そこから離れられないのだが、みんな仲良しではないか。
その後、すぐに真選組の人たちは撤収し、客は銀時一人となった。
「ちゃん、大変な男と付き合ってるねぇ」
「・・・私は銀さんが真選組の人たちと知り合いであることに驚きました」
「色々あってな。腐れ縁だよ」
「仲よしですよね」
「何言っちゃってんの?」
銀時は笑いながらあんみつを食べ、そして席を立った。
「ま、いつでも恋愛相談は受け付けるし、いざとなったら万事屋に来いよな」
「ありがとう」
は店の前まで銀時を送り、手を振った。
いつもと同じ日常だと思っていたのに、とんでもない一日だった。でも悪くはなかった。楽しかったと思う。土方の意外な一面も見れたのだ。
その夜、電話にて。
『、俺のことトシ兄って呼ぶのはもうやめろ』
「え、どうして?」
『・・・俺はロリコンじゃねぇ』
「分かってるよ」
が笑いを堪えたい気持ちになったのは土方には秘密だ。
「じゃあね、おやすみ、トシ」
『・・・おう』
ちょっとだけくすぐったい気持ちになったのも、秘密だ。土方の声にも照れが混じっていたことに気付き、は嬉しくなった。次に会うとき、ちゃんと名前を呼べるだろうか。
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