Remind me of your special DAY



 まだ爽やかさを残した風がの髪を揺らした。はほうきを持ちながら空を見上げた。なんて憎らしいほどのまっさらな青。
ちゃん、まだ掃除終わらない?」
 店の中から女主人の声が聞こえ、は慌ててゴミをちりとりに集めた。
「す、すみません・・・」
「春のボケかしら?」
「ち、違いますよ。でもすごくいい天気ですよね」
「それに惑わされる人間を春ボケっていうのよ」
 女主人は笑い、もつられて笑みを零した。
 働いているこのあんみつ屋は、天気の影響を受けて今日も賑わうだろう。


 店の日めくりカレンダーは五月五日を表示していた。こどもの日だ。道理で今日のお客さんは可愛らしい子供達ばかり。祝日のせいもあって忙しく、何も考える暇なんてなかった。
 そして、午後五時。夕食時になり、はもう一度カレンダーを見つめ、はっとなった。

 もしかして、今日は・・・。

 一度思いついてしまったことはなかなか頭から離れず、仕事が終わる午後八時までずっとその言葉はの頭を駆け巡った。
 ―――今日はトシ兄の誕生日ではないだろうか。
 彼とは幼馴染とも呼べる関係だろう。再会したばかりで、思い出せないこともたくさんあるけれど、どうにか記憶をさかのぼってみる。
 幼かった日、土方の誕生日を祝った日はこんなふうに温かくて、近所の家にはたくさんの鯉のぼりがあがっていて、確か五月五日だったのではないだろうか。
 もしこの記憶が本当であれば、仕事なんてしている場合じゃなかったのに・・・。
「・・・なんで言ってくれないのよ、馬鹿」
 閉店後の掃除をしながら、はつぶやいた。
 土方と最後に会ったのは一週間前だ。土方は忙しい。毎日会えるわけではない。それは仕方ないことだとも分かっている。だけど、自分の誕生日の日くらい教えてくれたってよかったのに。
 幼い頃はみんなと同じように祝うことしか出来なかった。誕生日がおぼろげになってしまうくらいだ、幼かったのだ。だけど今は、ちゃんと自分の手で祝ってあげることが出来るのに。


 仕事が終わってからは真選組の屯所に向かって走った。何度か見たことはあるけれど、入ったことはない。今日会えるだろうか。そもそも会わせてもらえるのだろうか。自分みたいな小娘が行ったところで・・・。
 走っていた足がどんどんとスピードを落としていく。そういえば何も買っていない。周りを見渡すけれどケーキ屋などこんな時間までやっているはずもなくて・・・。ああ、せめて自分の店の何かを持ってくればよかった。でも誕生日にあんみつって? 余計な思考がまわる。時間がないのに。午後九時。五月五日はあと三時間で終わるのに。
 再びは走り、ようやく着いた真選組屯所前。心臓が千切れそうに痛いのは緊張しているからか、走ったせいだからか。
「なんだい、お嬢さん、こんなムサくるしいところに何か用かい?」
 ぼんやりしていると後ろから声がかかり、は振り向いた。そこには隊服を着たいかつい男がにこやかに立っていた。人のよさそうな笑顔、しかもこの隊服は土方が着ているものとよく似ている。立場が上の者が着るものだ。
「・・・あの、土方十四郎は・・・いま、すか・・・?」
 子供っぽい質問の仕方に、は呆れた。それでも目の前の男の笑顔は変わらない。
「トシに何か用ですか?」
「え、えっと・・・、ちょっと会いたくて・・・」
 副長である土方を「トシ」と呼べる者なんて、一人しかいるはずがない。この男・・・、局長? この人が!?
 土方から話を聞いてはいたけれど、想像していたよりゴリラではない。確かにゴツイ体つきだけれど、こんな優男が局長なんて、よっぽど強いのだとは唾を飲みこんだ。
「ああ、今日はトシの誕生日だからなァ・・・、ちょっと待っててな」
 局長はが何者であるかも疑わずに、屯所の奥へと入っていった。
 そして待つこと十数分。
!?」
 走ってやってきた愛しの恋人。
「おまえ、こんな夜に何やってんだよ」
「あ・・・・・・」
 その漆黒の髪も、瞳孔開き気味のその鋭い瞳も、全部久しぶりだ。まだ土方は隊服を着ている。
「・・・まだ仕事中だったの?」
「質問に答えろ」
 今日の土方は少し怖い。仕事が忙しかったのかもしれない。目を合わせることも出来なくて、はうつむいた。
「トシ兄・・・・・・」
「あァ?」
「誕生日、おめでとう」
 勇気を持って土方の顔を見つめて言うと、土方は固まった。
「・・・・・・トシ兄?」
「お、おまえなァ・・・・・・」
 ぐったりとして、土方はそのまま座りこみ、頭を抱えた。は首をかしげ、そのまま土方の前にしゃがんだ。
「どうしたの?」
「どうしたじゃねェ! そんなことのためにこんなムサい所まで来やがって!」
 の顔も見ないで下を向いたまま土方は叫ぶ。でも耳が赤い。言動がごっちゃになっている土方にムッとして、は言った。
「私だって怒っているよ。どうして誕生日のこと、教えてくれなかったの」
「どこの世界に自分の誕生日を予告する男がいるかァァ!」
「・・・いるんじゃない、そこらじゅうに」
 確かに土方の性格を考えれば、教えてくれなかったのもうなずける。土方はそういう男じゃないってこと自分が一番知っていたのに。
「おまえもよくそんなくだらないこと覚えていたな」
「くだらないって何。今日はトシ兄が生まれてきてくれた大事な日だよ」
 が言うと、土方は顔をあげてクッと笑った。
「で、プレゼントは?」
「・・・ごめんなさい、本当は思い出したのが仕事中だったの。仕事終わってからなんて、どこもお店、開いてないし」
 だから次のオフの日まで待ってくれる? そう言おうとした矢先、の身体は大きな温もりに包まれた。
「だから、『私をあげる』って?」
 土方はを抱きしめ、からかう。は違うと否定したが、その安心できる心地よさから逃れることは出来ない。
「ありがとな、
 今度はからかいじゃなくて、真剣な声でそんな言葉が出てきて、不覚にも涙が浮かんだ。
「トシ兄、次のオフはいつ?」
「あ?」
「その日、二人で祝おうよ。ちゃんとプレゼントもケーキも用意しておくよ」
 が言うと、土方はうなずいた。
「でもやっぱプレゼントはおまえがいいなァ・・・」
 を見てにやりと笑う土方を見て、は顔を真っ赤にして叫んだ。
「トシ兄の馬鹿ァァ!」


 今日は付き合ってから初めて迎えるスペシャルな日。
 大切なあなたへ、誕生日おめでとう。






 
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