護りたいもの
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その不安は新八と喋っていたときに始まった。
「そういえば新八くんと銀時の出会いって、何?」
「ああ、銀さんから聞いていませんか?」
昼間に万事屋に訪ねてくれば、銀時は不在だった。どこまで仕事をする気があるのだろうか。どうせパチンコに行っているのだろう。そして神楽は定春を連れて遊びに行っているのだ。
は新八と話すのが好きだった。午後のまどろみの中で、まったりとお茶を飲みながらソファに身を預けて。人間嫌いだった自分がこんなことを出来るって、過去の自分に伝えたいと思うほどに。銀時ではゆっくりと話していてもノリと突っ込みで会話が終わってしまうし、酷いときには途中で押し倒されかねない。
「元はと言えば・・・、銀さんは僕と姉上を借金取りから助けてくれたんです」
新八はどこか遠い目をしてつぶやいた。はそれを聞いて、息をゆっくりと吐いた。
どこかで安心もしていた。そして納得をしていた。銀時はそういう人だと、恋人として付き合ってきて嫌というほど知っていたから。
だるそうな態度でも、面倒くさそうなことを言っても、必ず助けてくれる。
「姉上が遊郭に売り飛ばされそうになって」
「・・・へぇ」
「あの頃の銀さんも無茶苦茶だったなぁ」
どこか懐かしそうな表情を浮かべて、新八は微笑んだ。の知らない銀時。それを知っている新八にさえ嫉妬してしまいそうになる。
そんなに気付かないまま新八は語った。
『俺にはもうなにもない』
銀時はそう言ったという。だからせめて目の前にあるものは護りたいと。
「それは寂しいわね」
はソファに寄りかかって、空席である銀時の机を見た。新八は黙ったまま、うつむく。
そんなこと言わないで。
あたしがいるでしょう。
あなたのその心にあたしを残してよ。
いつまでもあたしを護ってよ。
いくつもの感情がを襲い、は両手で湯飲みを握った。その様子を見て、新八は口を開いた。
「さんがいてくれて、よかったです」
唐突な科白に、は驚いて顔をあげた。
新八はどこか泣きそうな、切なそうな表情で愛華を見つめていた。
「さんがいて、きっと銀さんは幸せだと思います。あの人には護るものが必要なんです」
その言葉は魔法のようにを震わせた。二人は見つめあう。ありがとう。そんなことを思う。勝手に嫉妬してごめんなさい。心から反省する。新八も自分を万事屋に迎え入れてくれた一人だったのに。
そのとき、
「ただいまー」
玄関が開き、足音とともにその声はやって来た。
「何見つめ合っちゃったんの、おまえら? 新八ィ、俺のに手を出すんじゃねーよ」
「出してませんよ! というか、僕、買い物に行ってきます!」
慌てて新八は財布を持って、外に出て行った。
新八が出て行ったあとの居間は、妙な空気に包まれた。
「・・・新八と何を話していたんだ?」
の隣にどさっと座り、軽い調子で銀時はの顔を覗き込んだ。
「あたし、新八くんを好きよ」
「は?」
「いつも静かに話を出来るし、誰かと違って押し倒したりしないし」
強い口調では早口で言う。銀時は片方の眉を動かしたが、を責めることはしない。
は銀時のほうを向いて、抱きついた。
「・・・どうしたよ? ゆっくり話をしたかったんじゃないのか?」
確かにそうだ。ゆっくり話をすることは好きだ。
だけど、銀時といるとたまらなくなる。どうしようもなくなる。触れたくなるのはも同じなのだ。
「・・・あたしは、銀時の心の中に、いる?」
は銀時の左胸に手を当てた。
「あたしはちゃんとココに、存在している?」
が必死になって言うと、銀時は少し寂しそうに微笑んで、その唇に唇を重ねた。
「―――当然」
銀時はそう言って、を抱きしめた。
―――俺にはもうなにもない。
それを否定するように、強く、強く。
「ねぇ、銀時」
「ん?」
「あたしは銀時を護るよ。護りたいよ」
銀時の肩に顔をうずめたままが言うと、銀時はふと笑った。
「それは頼もしいな」
そして、俺もずっと護り続けるとつぶやいた銀時の声は宙を舞い、の耳にちゃんと届いた。
いつまでもあたしを護って。
あたしを最後の糧にしていいから。切り札でいいから。利用していいから。
それほどまでに銀時を好き。その想いは言葉にならず、今日もの胸を支配する。だけど、きっと銀時には届いている。
もう二度とあんな科白は言わせない。
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