HAPPY your BirthDay
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冷たい秋風が身に染みる。はケーキ屋の前で立ち止まっていた。
「ー!」
遠くから大きな白い犬と一緒に走ってくるのは神楽だ。
「神楽ちゃん! こんにちは。定春の散歩中?」
「、こんなところで何しているアルか?」
神楽に問われ、は曖昧に笑う。もう一度ケーキ屋の看板を見上げる。
「ねぇ神楽ちゃん」
「どうしたアル?」
「銀時って、まだ血糖値高いままだよねぇ?」
「そうネ。まだドクターストップかかったままネ」
神楽の返答を聞き、はため息をついた。
「仕方ないわね」
「ケーキ買いたかったアルか?」
「ええと、ケーキっていうか・・・」
十月になって十日経つ。今日は愛しい人が生まれた日。もしかしたら神楽は知らないのだろうか。
「、ウチに来るアルよ」
「うん。ありがとう」
には手を引かれる。小さな手。銀時が大切にするのもよく分かる。いつまでも無邪気な神楽は、きっといつまでも可愛らしい。
今日は仕事を入れなかった。全ては愛しい恋人のため。なのに、万事屋に行くと新八しかいなくて、銀時はどこに行ったのかと聞いたら、おそらくパチンコあたりに行っているのだと言う。呆れて物も言えないとはこのことだ。
スーパーで買った材料を元に、いつもよりも手を込めて料理をする。新八や神楽も手伝ってくれて、将来家族が出来たらこんな感じだといいと漠然とは思う。
夕方になって銀時は景品とともに帰ってきた。
「、仕事は?」
開口一番がそれですか。はため息をつく。
「休み」
「ふーん」
それ以上何も言わずにソファに寝転んでジャンプを読み始める銀時に本気で腹が立って、は台所を二人に任せてずかずかと居間に歩いていき、銀時の腹の上に座り込んだ。
「い、いてててててて・・・、、何すんだよ」
「怒っているの! 人がせっかく・・・・・・」
言いながら気付く。これはあまりにも恩着せがましい。祝おうと思ったのも愛しいと思ったのも銀時のためだと思ったのも全部の自己満足なのだ。
「・・・・・・もういい」
「、待てよ」
銀時の上から退こうとしたの手首を銀時は掴み、起き上がって正面からを見つめた。
必然的には銀時の胡坐の間に座りこんでいる姿勢になり、は顔を赤らめるけれど今更逃げることは許されない。
「何だよ、どうしたんだよ?」
「・・・もう、本当、いいから」
「何か言いたいことあるのか?」
銀時の真剣な眼差しを見て、この人何も気付いていないんじゃないかという考えに辿りつく。この男は自分のことには無頓着な人間なのだ。
「銀時」
「何だよ」
「誕生日おめでとう」
が言うと、銀時は言葉をなくして口をあんぐり開けてを見つめていた。
「今日だった?」
「うん、今日だよ。十月十日」
「・・・よく知ってたなァ、おい」
「当たり前でしょ」
あたしは銀時が好きなの。好きで好きで好きでたまらなくて、それだけでも物足りなくて、そして何よりも銀時がこの世に生まれてきてくれたことにあたしは感謝をするのよ。
言葉にできない思いを込めては銀時の首に腕を回し、肩に額を押し付けた。
銀時は天涯孤独で、きっといろんな感情を抱いてきて、自ら家族を捨てたには銀時の気持ちを理解することなんて出来ない。それでも思うのだ。この世に生まれてきてくれてありがとう。例えそれがのエゴだとしても、きっと銀時なら許してくれるとは知っている。
「・・・ありがとう」
が言うと、銀時はふっと笑った。
「それって俺の科白じゃねェ?」
「うん・・・」
「で?」
銀時はにやりと笑う。
「ケーキは?」
当然の質問に、は言葉を濁らせ、眉をひそめた。
「そ、それは・・・。神楽ちゃんに聞いたわよ。血糖値、下がってないから禁止」
「え、なんでだよ」
「だって糖尿病になるの嫌でしょ、銀時?」
が言うと、銀時はその唇を愛華に寄せた。
「仕方ねェな、で満たすか」
「ちょ・・・、銀、時・・・・・・っ」
の文句は銀時によって塞がれ、台所では新八と神楽が呆れ返っていたというのはここだけの話。
「銀ちゃん、相変わらずアルね」
「神楽ちゃんはあんな大人になったら駄目だよ」
「おまえもな、眼鏡オタク」
「ちょっとそれは余計な一言だから!」
が手を込めて作ったハンバーグを焼きながら、それでも二人も思う。も思う。
誰よりも寂しかった銀時が、戦争にも参加していた銀時が、今も生きて巡り逢いを拒まずに来てくれたことに乾杯を。
愛しい人へ、大切なあなたへ。ケーキよりも甘くて幸せな時間を願い、そして感謝を込めて。
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