あなたが欲しい
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―――今は軽い男にも悪い男にもなれちゃうよ?
そう言ったときの銀時の瞳は、言葉とは裏腹にとても優しかった。
ここまで来たらもう何も怖いことなんてないし、ただそれよりも早く銀時が欲しいと思った。
じゃれあうように夜の道を歩いて、万事屋とは別の方向のの家へと向かう。狭い一部屋。ドアを閉めた途端に銀時がの体を抱きしめた。
「ぎ・・・ん、とき」
名前を呼ぶと、銀時がの目を覗き込んだ。
「んー?」
「・・・って呼んでもいい?」
が訊ねると、銀時は小さく笑った。今更だと。そしてキスをする。貪るように。そんなに恋愛豊富ではないだったが、このキスに翻弄される自分を自覚した。そして分かってしまった。
銀時のキスはとても上手い。それを言うと、銀時は笑った。
「、おまえいくつよ」
「え・・・、ハタチ、だけど」
「俺はおまえより年上なの。そんくらい上手くて当たり前なの」
勝手な理屈を言う銀時が何歳なのか気になってそれを訊こうとしたけれど、再び唇はふさがれてもうできなかった。
体の自由が利かない。
そのままなだれ込むように和室にある畳んだままの布団に二人で倒れこんだ。
「銀、時・・・」
「何だよ?」
「布団・・・畳んだまま」
口付けの合間にが必死につぶやくと、銀時は顔をゆがめた。
「そんな余裕ねぇよ」
嘘だと思った。自分よりも年上でキスも上手くて、こんなことにも慣れているみたいだし、今の自分のほうががむしゃらでみっともない気がした。
それでも体重と一緒に自分へ降りかかってくるこの気持ちがとても愛おしくて、は必死に銀時の首に腕をまわした。
布団の中で二人並んで情事後特有の気だるさと余韻に浸っていると、銀時の指がの髪の毛に触れた。この指がの身体を辿ったのだと思うと、顔が熱くなる。
「なァ」
そんなを知ってか知らずか、銀時は口を開いた。
「・・・なに?」
「一緒に暮らさねー?」
銀時の声は、普段話しているときより少し掠れていて、それはとても色っぽかった。はたまらなくなり、銀時に抱きついた。汗ばんだこの肌、この温もりが気持ちいい。
「銀時?」
「ん?」
抱いてもらったあとにこんな風に甘えたのは初めてだとは思った。それを受け止めてくれる銀時がとても好きで、大好きで、どうして今までそれに気付かなかったのか不思議なくらいに。
「それは、出来ないよ・・・」
だからこそ胸が痛い。せっかく一緒にいようと言ってくれたけれど、でも。
「・・・なんで」
「だって、神楽ちゃんたち、いるでしょ?」
目を閉じれば、あの笑顔に出会う。まだ一度しか会ったことないけれど、銀時の大切な家族に値する存在であることをは感づいていた。
「別にが来たって誰も文句言わねえよ。むしろ神楽なら喜ぶかもな」
「ねぇ、あたしたちはまだ出会ったばかりで、これからも会えるんだよ。あたしは仕事があるし、でもちゃんと銀時の家に遊びに行くよ。だから、今は神楽ちゃんや新八くんを大事にしてあげて」
が言うと、銀時は一瞬目を見開いて、そして細めた。
「いい女」
「・・・当たり前でしょ?」
悪ノリで答える。銀時の引き締まった腕に自分のそれを絡める。意外にも筋肉質で驚いた。プーな生活をしてくるくせに。
銀時は寝転んだまま部屋を見渡した。
「この部屋で一人で住んでいるのか」
「うん・・・」
「寂しかったらいつでも来い、な?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
どうしようって思う。
甘ったれな自分はいつかこの人の負担になってしまうんじゃないだろうか、とか色々な思考が脳裏を巡るけれど、でもただ今は。
この温もりを感じるだけで、心臓がつぶれそうなほど愛しくて。
幸せで。
不意に涙がこぼれると、銀時が舌で流れた涙を救った。その感触にぞくりと身体の芯が震える。それに気付いた銀時はにやりとほくそ笑んだ。
無言のまま、瞳で会話をし、は銀時の厚い胸板に腕をまわした。
いろんな不安が駆け巡っても、それ以上に勝る幸福感。
そして、身体中を支配する欲望。
ただ、銀時が欲しい。
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