夢から目覚め



 夢の中で銀時を見た。
 とても幸せだと感じた瞬間、銀時笑って背を向けて、はっとしたら視界に天井が現れた。


 は寝返りを打った。そしてぶつかる銀時の寝顔。ほっとして銀時に抱きつく。眠りの深い銀時は気付かない。それを利用して、額を押し付ける。
 そして少しずつ呼吸の仕方を思い出したら、銀時を観察するのだ。
 意外と睫毛が長いこととか、呼吸のリズムは自分よりも遅いこと、オッサンとか言われているけれど煙草を吸っていないその肌はきめ細かいし、何よりも唇が綺麗だ。そのラインも感触も。は指でそっと銀時の唇をなぞった。その瞬間、銀時は眠りながら顔をしかめる。
 どんな夢を見ているのだろう。――あたしがいる夢を見てくれていたらいい。



 朝になると新八がやってきた。

「あれ、さん。おはようございます」
「おはよう、新八くん。早いね。まだ銀時も神楽ちゃんも寝ているわよ」
「・・・・・あの人たちはいつもなんです」

 台所に立っているにため息を漏らし、僕も手伝いますと新八も台所に入る。

「前から思っていたんだけど、新八くんって料理上手よねぇ」
「そうですか?」
「うん、男の子なのに、立派だわって」
「・・・それは僕が作らないと姉上から命の危険に晒されていましたので」

 小声でつぶやく新八を見て、は微笑んだ。

「お妙さん、元気?」
「ええ、まぁ・・・」
「またお会いしたいわ」
「おい、飯はまだなのかよ」

 急に会話にだるそうな声が介入し、二人は振り返った。

「銀さん・・・」
「おいおい、銀さんのいないところで何ラブっちゃってんの?」

 はため息をつき、銀時に布巾を渡す。

「あたし、関白宣言には立ち向かうから。これでテーブル拭いてきて」
「いきなり奴隷宣言かよ。俺、そういうプレイは趣味じゃねえんだよ」
「何言ってるの?」

 真剣に純粋な目を向けてやると、銀時はしぶしぶと背中を向けてリビングに向かった。
 あ・・・、この感じ。息が詰まりそうになり、は胸を押さえた。

さん? 大丈夫ですか?」
「え? うん、大丈夫。あ、お味噌汁温まったかしら。新八くん、お椀に分けてくれる?」

 は一度深呼吸をしてから、再び作業に入った。

さん、大丈夫ですか?」
「え、何が?」
「・・・・・・いや、なんでもないです」

 するどい新八には笑顔を向けた。
 これは自分自身の問題だと思った。依存症は、早く治さなければ致命的になる。



 その後神楽も起きてきて、四人で朝ごはんを食べた後、神楽は定春を連れてどこかへ行き、新八も一度家に戻ると万事屋を出て行った。



 二人でソファに座ってテレビをぼんやりと見ていると、銀時がを呼んだ。

「何?」
「おまえさぁ、どこへも行かねえよな?」
「・・・・・・・・・」

 突然の銀時のその言葉に、は動揺した。
 夢を見た早朝から抱えている胸の痛みに、気付かないようにしていたのに・・・。

「・・・どういう意味?」
「俺さぁ、夢を見ちまったんだよ。が急に別れを告げて、俺に背を向けて去っていくの。ただの夢だよな?」

 テレビの明るい音が虚しく響く。
 の問いに銀時はめずらしく真面目に答え、は目を見張った。銀時を見るけれど、銀時はぼーっとテレビに目を向けていて、を見ようとはしない。

 まさか、あたしと同じ夢を見ていたなんて。

 じゃあな。そう言って銀時は消えた。あの恐怖、夢から覚めたときの安堵、今でもその感触が蘇る。

「ただの、夢、だよ・・・。銀時はどうなの」
「え?」
「銀時も、あたしに背を向けて、どこかに消えたりしないよね・・・?」

 が小さくつぶやくと、今度は銀時が目を見開いてを見た。そして、そっと笑う。

「当たり前だろ」

 そう言って、そっとを抱きしめる。

「何なら確かめてやろうか?」
「・・・ううん、これだけで充分だよ」

 銀時の温もりを感じるだけで、銀時に温もりを預けるだけで、やっと胸の痛みが和らいでいく。やっと呼吸の仕方を思い出す。
 銀時がいないと生きていけない。でもそれはきっと致命的にはならないのだとは悟る。だって、銀時も同じ症状を患っていると知ったから。
 つまらなそうな目をした銀時を見つめ、はその頬に指で触れた。

「・・・なぁ、確かめてやるって」
「駄目。今はこうして向きあっていたいでしょう?」

 ・・・訂正。
 銀時にはあたしが幸せにしてあげられる夢を見て欲しい。
 そして、あたしには甘い夢を与えてね。

 同時に同じ悲しい夢を見て、同じ痛みを共有できた奇跡をは胸の中におさめ、こっそりと微笑んだ。






 
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