コトバ ノ チカラ
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付き合っていて気付いたことがある。
銀時はあまり心を許さない。それは例え、恋人であるにも。
「銀時」
「んー?」
が仕事前に万事屋に寄ったときのことだった。毎日のことではないが、特に珍しいわけでもない、ごく普通の光景。が遊びに来るのも、神楽や新八が留守しているのも、銀時が仕事もせずにソファで寝転がってジャンプを読みふけっているのも。
は嘆息して、銀時のいるソファに近寄った。空いている隅っこに遠慮深く座り、に目も向けない銀時を見下ろした。
「ねえ、銀時ってば」
「あァ?」
先ほどより一段たちが悪い返事。の声なんて全然届いていない。は思い切ってその言葉を口にした。
「銀時、好き」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
銀時の瞳が静かにこちらを向いた。ドサリ、と音がした。ジャンプが床に落ちた音だった。
そのまま銀時はジャンプに目も向けずにゆっくりと起き上がり、隣に座っているを見た。
「・・・何?」
「一回しか言わないよ」
拗ねるに銀時は目を細めて頭を掻いた。
「オメー、人がジャンプ読んでいるときに何言っちゃってんの? そういうことは銀サンが聞いているときに言えよ」
銀時も膨れてそう言うけれど。
それじゃ意味がないじゃないとは心の中でつぶやく。
も銀時も、不必要に好きだとか愛しているとか言わない。
それでも、はときどき酷く不安になる。
好きだと言われたことはあっただろうか。一度や二度くらいあると思う。きっとあった。だけどまだ足りない。まだまだ足りない。もっと言って欲しい。
お互いの体温だけでは伝わらない、確かな言葉が欲しいのに。
いつからあたしはこんなに貪欲になってしまったのかな。
「」
が黙り込んでいると、銀時がの髪に触れた。
「どうしたよ?」
「・・・何が?」
「おまえがそういうコト言うのは、おかしいだろ?」
飄々と銀時は笑い、はむっとした。
普段言わないからって、おかしいことはない。だって。
「・・・いつも思っていることだよ」
が涙声でつぶやくと、銀時は目を見開いて、の頭を自分の胸に寄せた。
「銀時・・・」
「んー?」
「銀時は、どうなの」
見えないものはすぐにここにあるのに、大好きな人の鼓動も感じるのに、分からなくて潰れそうだ。
なんでもいいから答えが欲しい。そう思っていると、唇に温もりが触れた。
何度も重ねた、少し渇き気味の銀時の。
「・・・・・・・・・」
無言では銀時を見上げた。その頬が少し赤く染まっていることに気付き、そして今度は自分から顔を近づける。
今分かった。
この男は言葉を上手く使えないヒトなのだ。それを世の中では不器用と言う。とても不器用なヒト。もどかしいほどに。
は微笑んだ。
「・・・何笑ってんだよ」
「べっつにー?」
銀時の温もりを感じて、ようやく安心する。
今のキスは、愛しているの意味があったよね? だからも答える。同じ方法で。
言葉にできない想いを人間は温もりで確かめるのだ。
でも、いつかは必ず言って欲しい。
言葉の力は確かなものとして、人間の心に刻まれるのだから。
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