愛読書
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仕事前に万事屋に寄ってみた。
「あれ、さん。今日来ることになっていたんですか?」
玄関でを迎え入れたのは、いつも礼儀正しい新八だった。彼も最初にを見たときは怪訝な顔をしていたが、今では快く迎え入れてくれる。
新八にとっても、はいい加減な男としか言えない銀時と付き合っていると言う意味で恐れ多く、またある意味尊敬もしていた。
「ううん、今日はいい天気だから早く家を出ちゃってね。あと少しで仕事に行かなくちゃいけないんだけど寄ってみたの。銀時、いる?」
「あ・・・、銀さんは昼間からいませんよ。神楽ちゃんもどこかに遊びに行っちゃって・・・、すみません」
「新八くんが謝ることじゃないわ。急に来たのはあたしなんだし」
は新八に促されるまま下駄を脱ぎ、机やソファが置いてある部屋に入った。
「すみません、お茶淹れますね」
「気を遣わなくていいよ」
謙虚な子だなといつも思う。
彼であればもっとまともな就職口があるだろうに。だけど侍である彼は彼で苦労しているのだと銀時から聞いたことがあった。
「さん。僕もこれから出かけなくちゃいけなくて・・・、あ、でもよかったらゆっくりしていってください。銀さん、もうすぐ帰ってくるかもしれないし」
お茶の入った湯飲みをテーブルに置きながら、新八は言った。
だから今日の新八は奇怪な格好をしているのだとはひらめく。寺門通親衛隊、と書かれた鉢巻きと特攻服。これから喧嘩でもしに行くのですかというツッコミを飲み込んで、は微笑んだ。
「うん、ありがとう。行ってらっしゃい」
これさえなければ本当に普通の男の子なのに。やっぱり銀時と一緒に暮らしているだけあって普通じゃないわという思いを、胸のうちに閉じ込めては手を振った。
万事屋がこんなに静まることがあるのだろうかというほど、部屋の中は静まっていた。
は腕時計を眺めた。出勤まであと一時間。
ソファから立ち上がって、机のほうに歩いてみる。立派な机だけど、銀時たちがまともに働いているところなど見たことがない。万事屋ってどんなことをやっているのだろうか。好奇心が生まれて、はふと机の椅子を引いてみた。そこにある空間に埋まっていたもの。それは。
何冊も積み重なったジャンプ。
それもヤングジャンプやビジネスジャンプではない。週間少年ジャンプだ。
「・・・何、このジャンプの山は」
はジャンプを一冊一冊手にとって、つぶやいた。
いい年して何を読んでいるのか。金もないくせに毎週コレを買っているのかあの男は!
ああ、でももしかしたらこれはカモフラージュではないだろうか。
何せ思春期の少年達が暮らすこの家ではまともに大人の絵本を置いておけない。は自分の閃きに褒め称え、ジャンプをひとつひとつ手にとって確認してみた。
見つけたらソッコーで破って捨ててやる。そして、次に銀時にあったら殴ってやる。そう心に決めて。
エロ本探しを始めて二分経った頃、
「ただいまー」
不意に玄関から声が聞こえ、は慌てて立ち上がったけれど、机の周りに散らかしたジャンプを片付ける時間の余裕があるはずがない。そうしているうちに銀時がリビングに入ってきた。
「何、おまえ。来てたの。つーか何やってんの?」
「・・・別に」
「ははーん、もしかしたら銀サンの仕事ぶりを偵察中?」
にやける銀時を一瞥したあと、は肺に酸素を送り込んだあと思い切り叫んだ。
「仕事!? どこがよ? この机の下、ジャンプだらけだったわよ! しかも少年ジャンプ! あんた何やってんの」
「ジャンプは俺の愛読書なんですぅ」
「少年って柄じゃねえよ?」
「男はいつまでも少年なんですぅ」
しらける振りをする銀時を見て、はこめかみを押さえた。
「つーか、チャン、なんでこんなにジャンプを散らかしてるの。俺がエロ本でも隠しているとお思いで?」
「・・・・・・・・・!」
銀時の鋭いつっこみに、は赤くなった。その様子を見た銀時はますますをからかう。
「うっわー、チャン、エロいなー、そうやって探しちゃうんだ?」
「ジャンプを溜め込むよりは健全な気もするけれど!」
「ふぅん、はエロ本公認派? でも残念。どんなにここを探したって出てこねーよ」
銀時の言葉に、なんとなくは胸を撫で下ろす。
だって、やっぱり。
自分以外の女なんか見て欲しくない。きっとここでエロ本を見つけていたら、悲しんだに違いないのだ。
いつだっては自分の感情に疎い。
がほっと安堵の息を漏らし、今日は銀時に会いに来たのだと素直に伝えようとしたときだった。
「ヒントその一。エロ本見つけたかったら和室を探したほうがいいぜ?」
「・・・は?」
は笑顔をひきつらせたまま銀時を見た。拳が震える。
「だっておまえ、エロ本公認なんだろ? よかったァ、アレ隠すのひと苦労でさー」
「・・・・・・・・・」
のパンチが飛ぶのは五秒後。
「本と一緒に燃えてしまえ、このムッツリがァァ!!」
もちろん拳はグーのままで。
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