漆黒の空の下
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「たくさんの人を斬った」
静まり返った夜、お互いの熱を確かめ合ってその汗がひいた頃、ぽつりと銀時はつぶやいた。 半分眠りの世界に意識を奪われていたは、目をこすりながら隣にいる銀時の腕に絡みつく。
「どうしたの?」 「・・・なんでもねぇ」
の漆黒の長い髪にキスをして、目を閉じた。いつも死んだような目をしているから、眠いのか悲しいのか分からない。 は、暗闇の中で白く光る銀時の髪に指を通した。
「・・・柔らかい髪ね」 「オメー、皮肉ですか。銀サンのコンプレックスに対する嫌味ですかコノヤロー」 「コンプレックスなの?」 「いや、男はな、コンプレックスを抱えてこそデカくなるんだ。身体もナニもな」 「そうゆうことは聞いてないよ。さりげなく下品なことを言うんじゃねえ」
ぎゅっとその髪を引っ張って、はため息をついた。せっかく銀時の心の中が見えると思ったのに・・・。 当の本人は相変わらずの濁った瞳を向けて、イタタタと頭を押さえた。 は皮肉たらしく鼻で笑った後、頭を押さえている銀時の手に触れる。その手はひんやりと冷たかった。
「銀時」 「あァ?」 「たくさん、辛かったのね」
銀時が攘夷戦争に参加していたことは以前聞いたことがあった。ただ本人はあまり語りたくないら しく、詳しいことは知らない。 ただ、こうして二人で眠るようになって気付いた。ときどき銀時はうなされる。どんな悪夢にうなされているのか、には分からない。 が銀時の手を握って、再びその銀髪に触れると、銀時はつまらなそうに目を閉じた。 夜には不思議な作用が働くんだとは思う。幸せにもなれるし、とてつもなく寂しく感じることもある。きっと今夜は銀時にとって寂しい夜なのだ。 もっと素直に甘えたらいいのに、とは思う。あたしがここにいるんだから、もっと吐き出していいのよ? いつだって何を考えているか分からないような目をして、怖いものなんて何もないという顔をしているから分からなくなるじゃない。 強いようで本当は寂しいヒト。 言葉の代わりに銀時はに腕を回して、の肩に顔を押し付けた。どんなときでも弱さを見せることの出来ない不器用なヒト。 全部全部分かってあげたいと思う。
「なんでかな」
それはただの独り言のようにも聞こえた。
「もっと護りたかった。だけど、気付いたら全て指の間から零れていた。そして失くしちまってから 気づくんだ」
―――それはとても大切なものだったと。
は黙ったまま、銀時に鼓動を預けながらその言葉を聞いていた。自然に涙が溢れた。今泣かなきゃいけないのは自分ではなくて銀時なのに。
「銀時」
はつぶやいた。
「あたしがいるのよ」 「・・・・・・・・・」 「今は、怖がることなんて、ないよ」 「・・・・・・いや」
銀時は弱々しく否定の言葉を口にする。
「怖いぜ?」 「何が?」 「また失ってしまうかもしんねェ」
銀時の手に、腕に力がこもる。はそれに答えるように銀時にしがみついた。 静かに泣いていたせいで、鼻をすする音が響いて銀時は苦笑した。
「・・・ 」
名前を呼ばれるたびに、胸がときめく。 出逢ったときから変わらない。
「鼻水、俺につけるなよ?」 「つけねーわよ、馬鹿」 「ああ、馬鹿かもしんねぇ」
でもそういう馬鹿も大好きよ。は心の中でつぶやいた。
「」 「何よ」
ぐしぐしと涙を手で拭きながら、ぶっきらぼうに答えるに、銀時は言った。
「おまえはいなくなるんじゃねェよ」 「・・・当たり前でしょ」
あたしは銀時の救いになりたいの。は銀時の言葉に微笑んで、瞳を閉じた。一瞬だけ唇に落とされる温もり。少しだけ弱さを見せた銀時に、複雑ながらも喜びを感じていた。幸福に満たされたも、寂しさを吐き出せた銀時も、数分後には整った寝息を立てていた。
寂しくなる夜はこうして二人で寄り添えば、また強く明日を迎えられるだろう。
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